木育クラフトイベントの意味

適材適所と木の文化

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適材適所と木の文化

「このグランドピアノには約50種類の木が使われていましてね。鍵盤からの強い力が伝わるところには硬い材であるイタヤカエデ、響板にはアカエゾマツ、側板にはマカバというように、いろいろ使い分けています」ピアノ製造工場を訪れた折に、担当者から聞いた話だ。まさに、適材適所とはこういうことをいうのだと思った。
昔から、人は木の恩恵を受けながら暮らしてきた。それは、道具の材料であったり、煮炊きや暖をとる燃料であったり、木の実を食用にしたり、樹皮を煎じて薬にしたり…。長年にわたって木と接してきた経験から、木づかいの知恵も蓄えられてきたのだろう。

 

先日、岐阜県で行われた「エゴノキプロジェクト」に参加してきた。エゴノキは、北海道南部から本州、九州、沖縄、さらにはフィリピンにまで生育する落葉広葉樹だ。高さは5〜8m、直径15〜20cm程度の小高木。山の中では、そんなに目立つ木ではない。しかし、この木は粘り強く割れにくいという材の特性から、ある特定の用途になくてはならない存在なのだ。それは、和傘の「傘ロクロ」と呼ばれる部材。傘の竹骨をひとまとめにする役割があり、開閉時に大きな力がかかる。先端には、糸を通す1ミリくらいの小さな穴がいくつも開けられている。
この傘ロクロを作る職人は、たった一人だけになった(最近、一人、弟子入りした)。数年前、材料となるエゴノキを集める方が亡くなり、傘ロクロが作れない状況に陥った。そこで、岐阜県森林文化アカデミーの教員や学生、和傘職人や販売店、地元の森林関係者などがプロジェクトを発足させた。年に1回、傘ロクロに適した直径5〜6cmのエゴノキを伐り出す作業が行われている。今年は約200本のエゴノキを伐り出した。

 


 

傘ロクロ職人の長屋一男さんによると、エゴノキの代替材としてリョウブを使ったこともあるそうだ。ただし、どうもしっくりこなかったらしい。やはりエゴノキがベストだと。
昔から和傘づくりが盛んだった、現在の岐阜市加納地区。近隣の山や森には、様々な種類の木が生えていたと思われる。その中から、傘ロクロにはエゴノキが最適だという結論に、先人たちは行きついたのだ。

 

「木育」には、木のことをもっと知って、木の文化を正しく伝えていこうという意味も含まれている。先人たちが経験を積みながら学んできた木との関わり方。これからも、末永く木の文化が伝わっていくことを願う。私としても、木育の活動を通して、微力ではあるが大人にも子どもにも年齢に関係なく伝えていければと思っている。

西川栄明