大きな木の魅力

育て!木育 (2)

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木と森のノンフィクション・ライター西川栄明さん(弟子屈町在住・木育ファミリー会員)が、2009年12月朝日新聞「北の文化」欄に掲載された原稿に加筆してくださいました。2回に分けて紹介しています。


育て!木育 (2)

◆森や木の役割や現状を正しく伝える

 先日、近くの小学校で2日間にわたって木育の授業をする機会があった。まず1日目は全校児童11人と森を歩いた。

 

 「こっちはきれいに同じ木が並んでる」「あっちは、いろんな木がいっぱい生えてる」
歩き始めて間もなく、子どもたちが道をはさんで両側にある森の様子の違いに気づいて声をあげた。こちらから何も言わなくとも、トドマツの人工林とミズナラなどが生える天然林の違いを見極めたのだ。そこで、人工林と天然林の成り立ちについて少し話をしておいた。
 木育には様々な方法や観点があるが、私が大事にしているのは、森や木の役割や現実を正しく知り、正しく伝えていくことである。森と一言でいっても形態や組成、成り立ちが様々に異なるにもかかわらず、一つの括りで語られてしまうことが多い。「森を守る」といっても、人が介入せず自然に任せるやり方もあれば、間伐などの手を加えて管理する方法もある。そうした基本的な知識がないと、森林の保護や働きを考える時に誤った認識を持ってしまうこともある。
 友人からこんな話を聞いた。息子とテレビを見ていたら、たまたま林業現場で間伐をしているシーンが出てきた。すると、息子が「木を伐ったらダメ」と言ったそうだ。学校の先生が、そう話していたからだという。その先生は、むやみに木を伐ってはいけませんよというつもりで話したのかもしれないが、教える側の責任の大きさを感じた。

◆木の文化や歴史を学ぶ

 森で育った木が、どういうふうに加工されて身近で使われているのか。それを知り、木の文化を理解することも木育である。小学校での木育授業の際には、森へ入る前に、北海道の木から作られている道具を並べてクイズ形式で木に興味を持ってもらった。
 子どもたちが素早く手にとったのは、読売ジャイアンツの小笠原選手が使っていたバット。素材は道産アオダモである。アオダモは全国各地に生えているが、バット材としては木目の通った道産の評価が高く、特に日高から釧路地方にかけての山で育った木が重宝されている。最近、北米産メープル材のバットを使うプロ選手が増えたが、堅くて粘りのあるアオダモを好む選手は多い。イチロー選手も道産アオダモ材のバットを愛用している。子どもたちに「WBCでイチロー選手が決勝打を放ったバットの木は、あの山に生えていたかもしれないよ」と話すと、エーッと盛り上がった。身近に生えていた木が大舞台で活躍したかもしれないなんて…。
 各方面での道産材の活躍はめざましい。バットはほんの一例だが、案外知られていない。例えばグランドピアノ。約50種の木が用いられているが、響板に加工されるアカエゾマツをはじめ、カバなどの道産材が重責を担っている。ナラは20年ほど前まで欧米に輸出され、北欧などの高級家具に数多く使われた。昔のスキー板やボウリングのピンは、堅いイタヤカエデから作られていた。木材にはそれぞれに耐水性や堅さなどの特性があって、先人たちが用途にあった使い方を追求してきた。こういう木の文化や歴史もきっちり伝えたい。

◆五感と響きあう感性を育む

 

 木育授業の2日目は、木材工場へ見学に出かけた。製材場の一角にはエゾマツのおがくずの山が築かれ、木の香りが漂っていた。その横を通りすぎる際、「やさしい匂いがする」と、女の子がつぶやいた。何のてらいもない素直な感性。

 

 木育の目的の一つに、木と積極的にかかわり「五感と響きあう感性」をバランスよく育むということがある。木と触れ合うことによって五感を研ぎ澄ませている子どもたち。大人が正しく伝えるというのもおこがましい。子どもたちから、木の素晴らしさを教えてもらう場面も多い。
 来年度、北海道は木育マイスター制度を導入する。予定では20人のマイスターが、道内各地で行われる木育の授業やイベント開催のコーディネートや企画立案に携わる。マイスターたちがキーパーソンになって、まずは北海道で、そして全国各地で木育の活動が広まり、森や木と人とのつながりが正しく認識されていけばいいなと思っている。

 西川栄明(ノンフィクション・ライター)